まだ電灯がなかった時代の日本のすまい。暗闇に和ろうそくの一本の火が灯る、その暗さ、その中にある光。そして和紙や漆器などが薄あかりのなかに置いたときに発揮される美しさ。 視界が制限された空間から浮き出る美意識に、強く心を掴まれた。

　鍛冶屋のいえに住まいながら、日本独自の素材の美しさや素晴らしさに気づき始めた。作品表現に和紙を用いたり、鉄と漆を組み合わせたりと、それらは自分の暮らしにしっくりと馴染んでくれる。暮らしと自然がつながり馴染みゆくなかで日々、感じることや考えることが変化していく。そんな折、和歌山の土地にブドウハゼという漆科の櫨（はぜ）の木があることを知る。いまは製造元もとても少ない櫨の蝋（ろう）からつくられる和ろうそくというもの。たまらなく惹かれすぐに灯す日を迎えることとなる。

　初めて和ろうそくに火を灯したとき、風は吹いていないのにゆらゆら揺れる炎を見た。まるでいきものが呼吸をしているようで、無心で見入った。ろうそくが燃え尽きようとしていたとき、一瞬息を吹き返すように爆（は）ぜたかと思うと 静かに火が小さくなり尽きて骸のような灰だけが残った。

　まるで人間や動物、植物が生きているような姿。命そのもののよう。その何もなくなっていく様、潔さに憧れすら感じた。こんなふうに作為のない形をつくりたいと願った。自然界に生きるもののように、ただ、生きるための形を。闇のなかから生まれる世界を。